女三の宮が降嫁する
出家を決めた朱雀院は、愛娘の将来を案じ、光源氏に後見を託します。源氏は断りきれず、女三の宮を六条院に迎えます。
高校教科書に採られやすい二つの場面を分けて、あらすじ・人物の心情・現代語訳・和歌・敬語・文法まで整理します。
まずは、光源氏・紫の上・女三の宮・柏木の四人を押さえれば、二つの教科書範囲がつながります。
出家を決めた朱雀院は、愛娘の将来を案じ、光源氏に後見を託します。源氏は断りきれず、女三の宮を六条院に迎えます。
紫の上は深く傷つきますが、嫉妬を表に出せば人の笑いものになると考え、何事もないように振る舞います。
唐猫の綱が引っ掛かって御簾が開き、柏木は女三の宮を垣間見ます。偶然の出来事が、後の悲劇の出発点になります。
| 人物 | 立場 | テストで押さえる心情・行動 |
|---|---|---|
| 光源氏 | 六条院の主人。紫の上を深く愛する一方、朱雀院の依頼を受ける | 紫の上を傷つけたくないが、女三の宮を粗末にもできず、板挟みになる |
| 紫の上 | 六条院で事実上の中心となってきた女性 | 女三の宮の高い身分を意識し、将来への不安と屈辱を内側に隠す |
| 女三の宮 | 朱雀院の第三皇女。源氏に降嫁する若い内親王 | 身分は高いが幼く、宮中女性としての慎みや用心が十分ではない |
| 柏木 | 太政大臣の長男。女三の宮を望んでいた青年 | 結婚後も思いを捨てられず、垣間見によって恋情を決定的に深める |
| 夕霧 | 光源氏の子。柏木の友人 | 同じ場面を見ても、まず女三の宮側の不用意さと人目を気にする |
自分の死後、幼い女三の宮を守る人物がいないことを心配します。
朱雀院の強い依頼を、源氏は「え聞こえ否びず」、断ることができません。
源氏は愛情が変わらないと説明します。紫の上は表面上、穏やかに受け入れます。
内親王にふさわしい盛大な儀式が行われ、源氏は三夜続けて女三の宮のもとへ通います。
和歌で不安を示しながらも、人前では平静を装い、夜は眠れずに過ごします。
柏木・夕霧らが集まり、女三の宮と女房たちも御簾の内側から見物します。
唐猫が御簾を引き開けたため、柏木は女三の宮の姿をはっきり見て、思いを募らせます。
この範囲の中心は、女三の宮そのものよりも、結婚によって揺らぐ紫の上の心です。「本音」と「表面の態度」を分けて読みましょう。
三日がほどは、夜離れなく渡りたまふを、年ごろさもならひたまはぬ心地に、忍ぶれど、なほものあはれなり。
現代語訳:三日ほどの間、光源氏が毎夜欠かさず女三の宮のもとへお通いになるので、紫の上は長年そのようなことに慣れていなかった気持ちから、こらえようとしても、やはりしみじみと悲しく感じる。
目に近く移れば変はる世の中を
行く末遠く頼みけるかな
現代語訳:目の前の二人の関係さえ変わってしまう世の中なのに、私はあなたとの遠い将来まで変わらないものと頼りにしていたことですよ。
命こそ絶ゆとも絶えめ定めなき
世の常ならぬ仲の契りを
現代語訳:命は絶えることがあっても仕方がない。しかし、不確かな世の中にあっても、私たちの仲の契りは世間一般のように変わるものではないのだ。
さこそつれなく紛らはしたまへど、さぶらふ人びとも、(中略)おのがじしうち語らひ嘆かしげなるを、つゆも見知らぬやうに、いとけはひをかしく物語などしたまひつつ、夜更くるまでおはす。
現代語訳:紫の上はそのように何でもないように気持ちをごまかしていらっしゃるが、女房たちはそれぞれ語り合って嘆いている。紫の上は少しも気づかないようなふりをして、たいそう優雅に話などをしながら、夜が更けるまで起きている。
風うち吹きたる夜のけはひ冷やかにて、ふとも寝入られたまはぬを、(中略)夜深き鶏の声の聞こえたるも、ものあはれなり。
現代語訳:風が吹く夜は冷え冷えとして、紫の上はなかなか眠ることがおできにならない。まだ深夜なのに鶏の声が聞こえるのも、しみじみと悲しく感じられる。
かの御夢に見えたまひければ、うちおどろきたまひて、いかにと心騒がしたまふに、鶏の音待ち出でたまへれば、夜深きも知らず顔に、急ぎ出でたまふ。
現代語訳:紫の上が源氏の夢にお現れになったので、源氏は目を覚まし、どうしたのだろうと胸騒ぎがする。鶏の声を待ちつけると、まだ深夜なのを知らないふりをして、女三の宮のもとを急いで出る。
目に近く移れば変はる世の中を
行く末遠く頼みけるかな
「目に近く」と「行く末遠く」を対比し、目の前で起きた変化から将来への不信を表します。
命こそ絶ゆとも絶えめ定めなき
世の常ならぬ仲の契りを
「命は絶えても二人の契りは絶えない」と、紫の上だけは特別だと返しています。
妻戸押し開けて出でたまふを、見たてまつり送る。明けぐれの空に、雪の光見えておぼつかなし。名残までとまれる御匂ひ、「闇はあやなし」と独りごたる。
現代語訳:源氏が妻戸を開けて出て行くのを、女三の宮はお見送りする。明けきらない空に雪明かりがぼんやり見え、源氏の残り香が漂っている。「闇はわけもなく物を見えなくする」と独り言を言う。
中道を隔つるほどはなけれども
心乱るる今朝のあは雪
現代語訳:二人の間に遠い道が隔てているわけではないけれど、今朝の淡雪のように私の心は乱れています。
はかなくてうはの空にぞ消えぬべき
風にただよふ春のあは雪
現代語訳:私は頼りなく、空に浮いたまま消えてしまいそうです。風に漂う春の淡雪のように。
この範囲は、唐猫の動き → 御簾が開く → 柏木の垣間見 → 恋情の深化という因果関係と、柏木・夕霧の反応の違いが中心です。
唐猫のいと小さくをかしげなるを、すこし大きなる猫追ひ続きて、にはかに御簾のつまより走り出づるに、人びとおびえ騒ぎて、そよそよと身じろきさまよふけはひども、衣の音なひ、耳かしかましき心地す。
現代語訳:とても小さくかわいらしい唐猫を、少し大きな猫が追いかけ、突然、御簾の端から走り出したので、女房たちは驚き騒ぐ。ざわざわと動き回る様子や衣ずれの音が、耳にやかましいほどである。
綱いと長く付きたりけるを、物にひきかけまつはれにけるを、逃げむとひこしろふほどに、御簾の側いとあらはに引き開けられたるを、とみにひき直す人もなし。
現代語訳:猫にはたいそう長い綱が付いており、それが物に引っ掛かって絡みついたのを、猫が逃げようとして強く引っ張るうちに、御簾の端がすっかりあらわになるほど開けられたが、すぐに直す人もいない。
几帳の際すこし入りたるほどに、袿姿にて立ちたまへる人あり。階より西の二の間の東の側なれば、まぎれどころもなくあらはに見入れらる。
現代語訳:几帳の端から少し奥に入ったあたりに、袿姿で立っていらっしゃる人がいる。柏木の位置からは隠れる所もなく、はっきりと中を見通すことができる。
御髪のすそまでけざやかに見ゆるは、糸をよりかけたるやうになびきて、(中略)姿つき、髪のかかりたまへる側目、言ひ知らずあてにらうたげなり。
現代語訳:髪は裾までくっきり見え、より合わせた糸のようになびいている。姿や髪のかかった横顔は、言い表せないほど上品でかわいらしい。
大将、いとかたはらいたけれど、はひ寄らむもなかなかいと軽々しければ、ただ心を得させて、うちしはぶきたまへるにぞ、やをらひき入りたまふ。
現代語訳:夕霧はとても見苦しく気がかりに思うが、近寄って行くのもかえって軽率なので、ただ女三の宮に気づかせようとして咳払いをなさると、女三の宮はそっと奥へお入りになる。
まして、さばかり心をしめたる衛門督は、胸ふとふたがりて、(中略)さらぬ顔にもてなしたれど、「まさに目とどめじや」と、大将はいとほしく思さる。
現代語訳:まして、以前からあれほど女三の宮に心を寄せていた柏木は、急に胸がいっぱいになる。何でもない顔を装ってはいるが、夕霧は「目を留めずにいられるはずがない」と気の毒に思う。
| 語句 | 本文での意味 | 覚え方・文脈 |
|---|---|---|
| 降嫁 | 皇女が皇族以外の男性に嫁ぐこと | 女三の宮が臣下の立場にある光源氏へ嫁ぐ |
| 後見 | 世話をし、社会的に守る人 | 朱雀院が女三の宮に必要だと考えたもの |
| 夜離れ | 男が女のもとへ夜に通わないこと | 「夜離れなく」=毎夜欠かさず |
| つれなし | 平然としている、何でもない様子だ | 紫の上が悲しみを隠す態度 |
| うしろめたし | 将来が気がかりだ、不安だ | 「後ろ暗い」ではなく、先行きへの心配 |
| ものあはれなり | しみじみと心を動かされる、悲しい | 深夜の鶏の声と紫の上の孤独 |
| しどけなし | だらしない、乱れている | 几帳をきちんと整えていない女房たち |
| 世づく | 世慣れる、世間的になる | ここでは奥ゆかしさを欠く方向の表現 |
| ひこしろふ | 引っ張る、強く引く | 逃げようとする唐猫の動作 |
| とみに | すぐに、急に | 「とみにひき直す人もなし」=すぐ直す人もいない |
| あてなり | 上品だ、高貴だ | 女三の宮の横顔の描写 |
| らうたげなり | かわいらしい、いじらしい | 女三の宮の幼く愛らしい印象 |
| かたはらいたし | 見苦しい、気の毒だ、気がかりだ | 夕霧が人目と女三の宮の不用意さを気にする |
| 本文 | 文法事項 | 訳・ポイント |
|---|---|---|
| 忍ぶれど | 接続助詞 已然形+ど | 「こらえるけれども」。逆接の確定条件 |
| 頼みけるかな | 詠嘆 けり連体形+かな | 「頼りにしていたことだなあ」。過去を振り返る気づきと詠嘆 |
| 命こそ絶ゆとも絶えめ | 係り結び こそ+已然形 | 「命は絶えることがあっても仕方がない」。結びの「め」は助動詞「む」の已然形 |
| 世の常ならぬ | 打消 断定「なり」未然形+ず連体形 | 「世間一般のものではない」 |
| つゆも見知らぬ | 呼応 つゆ+打消 | 「少しも気づかない」。実際には知っていて、知らないふりをする |
| うしろめたくぞ思しなりぬる | 係り結び ぞ+連体形 | 「不安にお思いになるようになった」。完了「ぬ」の連体形が「ぬる」 |
| 見えたまひければ | 原因 けり已然形+ば | 「夢にお現れになったので」 |
| なつかぬにや | 疑問 打消「ず」連体形+に+や | 「なついていないのであろうか」 |
| 逃げむと | 意志 助動詞む | 猫が「逃げよう」とする意志 |
| 引き開けられたる | 受身+完了 | 「引き開けられている」。らる+たり連体形 |
| 見入れらる | 可能 助動詞らる | 「見通すことができる」。隠れる所のない位置関係を表す |
| ぞ見ゆる | 係り結び ぞ+連体形 | 終止形「見ゆ」ではなく、連体形「見ゆる」で結ぶ |
| 表現 | 種類 | 誰への敬意か |
|---|---|---|
| 渡りたまふ | 尊敬 | 動作主の光源氏 |
| 思しなりぬる | 尊敬 | 動作主の紫の上。「思す」=お思いになる |
| 見えたまひければ | 尊敬 | 夢に現れた紫の上 |
| 立ちたまへる人 | 尊敬 | 動作主の女三の宮 |
| 見返りたまへる | 尊敬 | 動作主の女三の宮 |
| うちしはぶきたまへる | 尊敬 | 動作主の夕霧 |
| よく出る問い | 答案に入れる要素 |
|---|---|
| 紫の上はなぜ「つれなく」振る舞うのか | 女三の宮の降嫁に傷ついているが、嫉妬を表に出して周囲の同情や嘲笑を受けるのを避け、自尊心を守るため |
| 「夜深き鶏の声」にはどのような効果があるか | 冷えた深夜と長く眠れない時間を感じさせ、紫の上の孤独・悲しみ・源氏を待つつらさを強調する |
| 二首の和歌はどのように対応するか | 紫の上は愛情の変化への不安を詠み、源氏は二人の契りだけは変わらないと答える |
| 御簾が開いた経緯を説明せよ | 唐猫が逃げようとし、長い綱が物に絡んで強く引かれ、その結果、御簾が外から見えるほど開いた |
| 夕霧と柏木の違いを説明せよ | 夕霧は不用意な状態を気にして咳払いで知らせるが、柏木は以前からの恋心によって女三の宮に目を奪われ、思いを深める |
| 唐猫は物語上どのような役割を持つか | 男女を隔てる御簾を偶然開き、柏木の恋を決定的にして、後の悲劇を動かすきっかけとなる |
人物の心情・古語・文法・敬語・和歌・場面理解を確認します。
「若菜上」は長い巻ですが、高校教科書の本文は大きく次の二系統です。学校で配られた教科書・プリントの題名を見て、対応する方から復習しましょう。
「女三の宮の降嫁」「三日がほど」「紫の上の苦悩」「夜深き鶏の声」「暁の雪」は、女三の宮との結婚をめぐる紫の上と光源氏の場面です。
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「唐猫の綱」「柏木と女三の宮」「女三の宮と柏木」は、唐猫が御簾を開き、柏木が女三の宮を見てしまう場面です。
範囲Bへ進む
| 教科書での教材名 | 中心人物 | このページの対応箇所 |
|---|---|---|
| 女三の宮の降嫁/三日がほど | 光源氏・紫の上・女三の宮 | 結婚の三日間、紫の上と源氏の和歌、紫の上の不安 |
| 紫の上の苦悩/夜深き鶏の声 | 紫の上・光源氏 | 平静を装う紫の上、眠れない夜、急いで戻る源氏 |
| 暁の雪 | 紫の上・光源氏・女三の宮 | 夜明け前の雪、源氏の帰還、女三の宮との「あは雪」の贈答 |
| 唐猫の綱/柏木と女三の宮/女三の宮と柏木 | 柏木・女三の宮・夕霧 | 唐猫の騒ぎ、御簾、垣間見、夕霧と柏木の反応の違い |