別れの直前の再会
六条御息所は、斎宮となった娘と伊勢へ下る決意をしている。光源氏の訪問は、出発直前の九月七日ごろです。
六条御息所が伊勢へ下る直前、光源氏が野宮を訪れる場面を中心に、人物の心情、秋の情景、榊の和歌、古語・助動詞・敬語までテストで問われやすい順に確認します。
中心人物は光源氏と六条御息所。六条御息所の娘・斎宮の伊勢下向が、二人の別れを決定的にします。
六条御息所は、斎宮となった娘と伊勢へ下る決意をしている。光源氏の訪問は、出発直前の九月七日ごろです。
衰えた秋草、かれがれの虫の音、冷たい松風が、関係の終わりと別離の悲しさを映します。
神域の榊を使い、御息所は源氏の不実を問い、源氏は変わらぬ思いを訴えます。巻名「賢木」の核です。
高校教科書では、第十帖全体ではなく、六条御息所と光源氏の「野宮の別れ」「野宮の一夜」と呼ばれる場面が扱われることがあります。光源氏は二十三歳の秋。御息所の伊勢下向を前に、久しぶりに野宮を訪ねます。
前の「葵」巻で、葵祭の車争いによる屈辱や、本人の意思を離れた生霊が葵の上を苦しめる事件を経験します。光源氏との関係にも距離ができました。
前の重要場面:源氏物語「葵」定期テスト対策で、車争い・六条御息所の生霊・葵の上の死を確認できます。
娘は伊勢神宮に仕える斎宮。御息所は娘に付き添うことを理由に、つらい都と光源氏のもとを離れようとします。
伊勢への出発が迫る九月七日ごろ、源氏は人目を避けて嵯峨野の野宮へ向かいます。御息所は迷いながらも、物越しの対面を待ちます。
源氏は榊を差し入れて変わらぬ心を訴え、御息所はその不実を皮肉に返します。二人の愛情は残っていますが、過去の傷は消えません。
再会によって名残惜しさは増します。それでも御息所は決意を変えず、やがて斎宮とともに伊勢へ下ります。
この後の光源氏:「賢木」巻後半では桐壺院の崩御などを経て、源氏は政治的に苦しい立場へ進みます。都を離れた後の場面は、源氏物語「須磨」定期テスト対策で確認できます。
「いでや」とは思しわづらひながら、いとあまり埋れいたきを、物越しばかりの対面はと、人知れず待ちきこえたまひけり。
現代語訳:「さあ、どうしたものか」とお迷いになりながらも、あまりに引っ込み思案でいるのもよくないので、物越しに少し会うだけならと思って、人知れず源氏をお待ち申し上げになった。
はるけき野辺を分け入りたまふより、いとものあはれなり。秋の花みなおとろへつつ、浅茅が原もかれがれなる虫の音に、松風すごく吹きあはせて、……いと艶なり。
現代語訳:遠い野辺を分け入っていらっしゃる時から、たいそうしみじみと心を動かされる。秋の花はみな衰え、浅茅の原ではかすれた虫の声に寂しい松風が吹き合わせ、楽器の音が途切れ途切れに聞こえて、たいそう優美である。
御心にも、などて今まで立ちならさざりつらむと、過ぎぬる方悔しう思さる。
現代語訳:源氏ご自身も、どうして今までたびたび通って来なかったのだろうと、過ぎ去ったことを悔しく、自然とお思いになる。
「変らぬ色をしるべにてこそ、斎垣も越えはべりにけれ。さも心憂く」と、聞こえたまへば、
現代語訳:「色の変わらない榊を、変わらぬ私の心の道しるべとして、神聖な垣根までも越えて参ったのです。それなのに、あなたはなんとつれないことでしょう」と申し上げなさると、
和歌は一首ずつではなく、御息所の問いかけと源氏の返答をセットで読みます。「神域の語」と「男女の関係」を重ねている点が最重要です。
神垣は しるしの杉も なきものを
いかにまがへて 折れる榊ぞ
現代語訳:この神垣には、訪ねる目印となる杉もないのに、どう取り違えて榊を折ったのでしょうか。
少女子が あたりと思へば 榊葉の
香をなつかしみ とめてこそ折れ
現代語訳:神に仕える乙女のいるあたりだと思ったので、榊の葉の香を慕わしく思い、探し求めて折ったのです。
| 表現 | 表の意味 | 二人の関係での意味 |
|---|---|---|
| 神垣・斎垣 | 神聖な区域を囲う垣根 | 御息所が源氏との間に置く心理的な隔たり |
| しるしの杉 | 訪ねるための目印となる杉 | ここを訪ねる確かな理由もないはずだ、という皮肉 |
| 榊 | 神事に用いる常緑樹 | 変わらぬ心、御息所との縁を訴える小道具 |
| 少女子 | 神に仕える清らかな乙女 | 神聖な野宮のイメージに寄せながら、御息所への慕情を返す語 |
| 香・なつかし | 榊の香り・心ひかれる | 御息所を恋しく慕う気持ち |
| 古語 | この場面での意味 | 訳すときの注意 |
|---|---|---|
| むげに | すぐにも・いよいよ | 「まったく」だけで固定せず、「今日か明日か」に合わせる。 |
| 思しわづらふ | あれこれ思い悩まれる | 主語は六条御息所。「思す」は尊敬語。 |
| 埋れいたし | 引っ込み思案だ・無愛想だ | ここでは、まったく会わないのはあまりに情趣を解さないという気持ち。 |
| はるけし | 遠い | 嵯峨野の野宮までの距離と、心理的な隔たりを感じさせる。 |
| ものあはれなり | しみじみと心を動かされる | 単なる「悲しい」より、景色と心が響き合う感動。 |
| すごし | もの寂しくぞっとする感じだ | 現代語の「すごい」ではない。 |
| 艶なり | 優美だ・風情がある | 野宮の寂しさを美として感じる語。 |
| 立ちならす | たびたび通ってなじむ | 源氏がこれまで訪れなかったことへの後悔につながる。 |
| わづらはし | 気づまりだ・はばかられる | 神聖な野宮で男女が会うことへの遠慮。 |
| まばゆし | きまりが悪い・恥ずかしい | 長い無沙汰をもっともらしく弁解できない気持ち。 |
| しるべ | 道案内・目印 | 榊の変わらぬ色を、自分の変わらぬ心の証しとする。 |
| 心憂し | つらい・情けない・つれない | ここでは、会わせてくれない御息所への恨み言。 |
| なつかし | 心ひかれる・慕わしい | 現代語の「昔を懐かしむ」だけではない。 |
| とむ | 探し求める | 和歌の「とめて」は「探し求めて」。 |
『源氏物語』は敬語から主語を判定する問題が頻出です。「誰の動作か」と「誰を高める敬語か」をセットで確認します。
| 本文 | 文法・敬語 | 主語/敬意の方向 |
|---|---|---|
| 思しわづらひ | 「思す」=尊敬語 | 語り手 → 六条御息所 |
| 待ちきこえたまひけり | 「聞こゆ」=謙譲語、「給ふ」=尊敬語、「けり」=過去 | 主語は御息所。「聞こゆ」は御息所から源氏へ、「給ふ」は語り手から御息所へ。 |
| 分け入りたまふ | 「給ふ」=尊敬語 | 語り手 → 光源氏 |
| 物の音ども絶え絶え聞こえたる | 「聞こゆ」=自然に耳に入る。「たる」=存続 | ここは謙譲語ではない。「楽器の音が聞こえている」。 |
| 思さる | 「思す」=尊敬語+「る」=自発 | 主語は源氏。「自然とお思いになる」。 |
| 越えはべりにけれ | 「侍り」=丁寧語、「に」=完了「ぬ」、「けれ」=過去「けり」の已然形 | 「こそ」の係り結びで「けれ」。話し手は源氏。 |
| 折れる榊ぞ | 「る」=完了・存続「り」の連体形 | 「折った榊」。歌の詠み手は六条御息所。 |
| とめてこそ折れ | 「こそ」=係助詞、「折れ」=「折る」の已然形 | 係り結び。歌の詠み手は光源氏。 |
| 要素 | 本文での役割 | 心情とのつながり |
|---|---|---|
| 九月七日ごろ | 伊勢下向の直前、秋が深まる時期 | 別れまで時間がない切迫感 |
| 野宮 | 斎宮が伊勢下向前に潔斎する神聖な場所 | 源氏が簡単には踏み込めない距離 |
| 小柴垣・黒木の鳥居 | 仮そめながら神々しい野宮の姿 | 御息所の気高さと近寄りがたさ |
| 秋草・虫・松風 | 衰えと寂しさを聴覚・視覚で描く | 恋の終わりと名残惜しさ |
| 物越し・御簾 | 直接向き合わず、隔てを残して会う | 愛情と警戒が同時にある |
| 榊 | 神域にふさわしい常緑樹 | 変わらぬ心の主張と、その主張への疑い |
あらすじ・心情・和歌・古語・敬語を、高校の定期テスト形式で確認します。