問1. 本文に出てくる「垓下・虞・騅」の読みの組み合わせとして正しいものはどれですか。
問1の解答・解説
正解:2. がいか・ぐ・すい
項王軍壁垓下。有美人名虞。駿馬名騅。
地名の「垓下」は「がいか」、人名の「虞」は「ぐ」、馬の名の「騅」は「すい」です。本文の音読や書き下し文を書く際にも、固有名詞の読みを確認しておきましょう。
高校漢文 · 史記 · 項羽本紀
四面楚歌
テスト対策50問・書き下し文・現代語訳
「四面楚歌」の選択40問と記述10問を、解答・解説付きで無料公開。語句・句法・書き下し・人物の心情を、本文の根拠と結びつけて復習できます。
選択問題40問は、答えを選ぶとその場で採点・解説を確認できます。記述問題10問は、解答例と採点ポイントで自己採点しましょう。
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正解:2. がいか・ぐ・すい
項王軍壁垓下。有美人名虞。駿馬名騅。
地名の「垓下」は「がいか」、人名の「虞」は「ぐ」、馬の名の「騅」は「すい」です。本文の音読や書き下し文を書く際にも、固有名詞の読みを確認しておきましょう。
正解:4. 漢の軍と諸侯の軍
漢軍及諸侯兵圍之數重
「及」は「および」と読み、漢軍と諸侯兵を並列につなぎます。この二つを合わせた「漢軍及諸侯兵」が、後の動詞「圍」の主語です。「及ぶ」という移動や到達の意味ではありません。
正解:4. 之を囲むこと数重なり。
圍之數重
動詞「圍」の目的語「之」を先に読み、「之を囲む」とします。「數重」は包囲の重なりを述べる部分で、「こと」を補って「之を囲むこと数重なり」と読み下せます。
正解:3. 陣を構える
項王軍壁垓下
「壁」は陣地・とりでを表す名詞が、ここでは「陣を構える」という動詞として用いられています。
正解:3. 兵が少なく食糧も尽き、何重にも包囲されている
兵少食盡,漢軍及諸侯兵圍之數重
「兵少食盡」と「漢軍及諸侯兵圍之數重」を合わせて読めば、兵力・食糧・包囲の三点が分かります。
正解:4. 項羽の軍
漢軍及諸侯兵圍之數重
包囲している主語は「漢軍及諸侯兵」、包囲されている対象は項羽の軍です。
正解:4. 楚の歌を歌うという動作を示す語
夜聞漢軍四面皆楚歌
「楚歌」はこの箇所では「楚歌する」、つまり楚の歌を歌うという動詞的な働きです。「漢軍が四方でみな楚の歌を歌う」という内容全体が、項羽の「聞」いた内容になります。
正解:2. 楚人之多
是何楚人之多也
「楚人之多」の「之」は「の」と読み、主語の「楚人」と述語の「多」をつなぎます。「圍之」の「之」は項羽の軍、「常騎之」の「之」は騅、「美人和之」の「之」は項羽の歌を指す代名詞です。
正解:4. 項羽が疑問の形で述べた推測であり、語り手の事実の説明ではないから
項王乃大驚曰、漢皆已得楚乎
この言葉は楚歌を聞いた項羽の発言です。「乎」で疑問を表し、「漢がもう楚をすべて得たのか」と受け止めています。人物が考えたことと、地の文が事実として示したことを区別します。
正解:1. 周囲を包囲する漢軍から
夜聞漢軍四面皆楚歌
「聞漢軍四面皆楚歌」とあります。敵陣から故郷の歌が聞こえたことが、項羽の驚きにつながります。
正解:3. 漢はもう楚をすべて手に入れたのか
漢皆已得楚乎
「已」は「すでに」、「得楚」は「楚を手に入れる」。「乎」で疑問を表します。
正解:1. 漢が楚をすべて奪ったのではないかと思い、敵陣に多くの楚人がいると受け止めたから
漢皆已得楚乎?是何楚人之多也
「漢皆已得楚乎」「是何楚人之多也」の発言から、故郷の楚まで漢に奪われたのではないかという驚きと不安が読み取れます。
正解:1. 楚人の多さへの詠嘆
是何楚人之多也
「何ぞ楚人の多きや」は「なんと楚の人が多いことか」。人数を具体的に尋ねる文ではなく、程度への驚きを表します。
正解:4. 帳中に飲す/陣営の幕の中で酒を飲む
項王則夜起、飲帳中
「帳」は陣営の幕、「帳中」はその中です。飲む場所を示す「帳中」を「帳中に」と先に読み、「帳中に飲す」とします。「帳」を現代語の帳面の意味に取らないようにします。
正解:2. 從=虞、騎=項羽
有美人名虞、常幸從。駿馬名騅、常騎之
付き従うのは虞、馬に乗るのは項羽です。どちらも「常」で始まりますが、同じ人物が二つの動作をするわけではありません。虞と騅を紹介する文の流れから、省略された主語を補います。
正解:4. 足の速い優れた馬
駿馬名騅
「駿馬」は足の速い優れた馬です。騅は本来、優れた馬として紹介されています。その騅について歌では「不逝」と述べるため、単に馬の能力が低いという説明にはなりません。
正解:4. 寵愛する
常幸從
虞はいつも項羽に寵愛され、付き従っていました。「幸せられて」と受け身に読みます。
正解:2. 項羽
常騎之
「常騎之」の主語は項羽。「之」は直前に紹介された駿馬・騅を指します。
正解:2. 項羽の愛馬の名
駿馬名騅
直前の「駿馬名騅」によって、騅は項羽が常に乗っていた駿馬だと分かります。
正解:1. 自ら(みづから)・為る(つくる)/自分で詩を作る
自為詩曰
「自」は「みづから」で、自分自身が行うこと。「為」はここでは「つくる」と読みます。「自ら詩を為り」と読み下し、項羽が自分で詩を作ったことを表します。
正解:3. 悲しみを込めて歌い、心に深く感じて嘆く
於是項王乃悲歌忼慨
「悲歌」は悲しみを込めて歌うこと、「忼慨(慷慨)」はここでは心に深く感じて嘆くことです。続く歌の内容や涙の描写から、追い詰められた項羽の感情を捉えます。
正解:4. 詠嘆の気持ちや歌の調子を添える
力拔山兮氣蓋世、時不利兮騅不逝。虞兮虞兮柰若何
「兮」は詠嘆や語調を添える字です。訓読では読まない場合も、「や」と読む場合もあります。本ページでは冒頭二句などでは読まず、「虞兮虞兮」は「虞や虞や」としています。
正解:3. 気は世を蓋(おほ)ふ。
氣蓋世
主語は「氣」、目的語は「世」です。「蓋」は歴史的仮名遣いで「おほふ」と書き、「気は世を蓋ふ」とします。主語と目的語の関係を保ち、仮名遣いにも注意して書き下します。
正解:3. 奈何すべき。
騅不逝兮可柰何
「可」は「べし」と読み、ここでは「奈何すべき」となります。前の「騅不逝」を受け、進まない騅をどうしたらよいのかという困惑を表します。否定や禁止の表現に置き換えないようにします。
正解:3. 虞への呼びかけを重ね、切実な思いを強める
虞兮虞兮柰若何
同じ名への呼びかけを重ね、その直後に「お前をどうしたらよいのか」と続けています。虞の先行きを案じる思いが強く伝わる表現です。二人の虞がいるという意味ではありません。
正解:4. 自分の並外れた力と気迫
力拔山兮氣蓋世
「山を抜く」「世を覆う」という大きな表現で、自分の力と気迫への自負を示しています。
正解:4. 時勢が味方せず、騅も進まない
時不利兮騅不逝
「時」はここでは時勢・時運。「逝」は進む・行くという意味で、この箇所の「不逝」を死と結びつけません。
正解:1. 力への誇りと、力では打開できない状況への嘆きが対照的である
力拔山兮氣蓋世,時不利兮騅不逝
「力拔山兮氣蓋世」という英雄の自負が、「時不利」「奈若何」の困惑・嘆きと対照をなします。
正解:4. お前(虞)
虞兮虞兮柰若何
「若」はここでは二人称代名詞「なんぢ」。直前に呼びかけている虞を指します。
正解:4. 若を奈何せん/お前をどうしたらよいか
柰若何
「奈A何」は「Aをいかんせん」「Aをどうしたらよいか」。「若」がAに当たります。
正解:3. 歌や曲が一回終わること
歌數闋、美人和之
「闋」は楽曲が一回終わることです。「歌數闋」は、何度か歌い終えることを示します。歌詞の数や、歌っている人数を述べる表現ではありません。
正解:1. 前者は涙を指す名詞、後者は泣くという動詞である
項王泣數行下、左右皆泣
前者は「項王、泣(なみだ)数行下る」と読み、涙が幾筋も流れる描写です。後者は「左右皆泣き」と読み、側近たちが泣く動作を述べます。同じ字でも文中の働きが異なります。
正解:2. すうこう/幾筋もの涙の流れ
項王泣數行下
「數行」はここでは「すうこう」と読み、涙の流れる筋を表します。「行」を歩く動作として読んだり、紙に書かれた文字の行と取ったりしないよう、前後の「泣」「下」と合わせて判断します。
正解:4. 楚歌を聞く→項羽が詩を作って歌う→虞が唱和する→側近たちが泣く
夜聞漢軍四面皆楚歌。自為詩曰。歌數闋、美人和之。項王泣數行下、左右皆泣
包囲する漢軍の楚歌に驚いた後、項羽は帳中で酒を飲み、自分で詩を作って歌います。虞の唱和、項羽の涙、側近たちの涙へと進み、周囲にも深い悲しみが広がる構成です。
正解:3. 項羽の歌に合わせて歌う
美人和之
「和す」は唱和すること。「之」は項羽の歌を指し、虞がその歌に合わせています。
正解:4. 項羽のそばに仕える人々
左右皆泣
「左右」は君主などのそばに仕える人々を指すことがあります。ここでは項羽の側近たちです。
正解:4. 顔を上げて見ることのできる者はいない
莫能仰視
「莫」は「〜する者はいない」、「能」は「できる」。「禁止」ではなく、人々の状態を述べています。
正解:4. 虞が項羽の歌に合わせて歌ったこと
美人和之
本文には「美人和之」とあります。虞の死や命令などはこの範囲には書かれていません。
正解:3. 『史記』・司馬遷
『史記』巻七・項羽本紀
この場面の出典は、司馬遷が著した『史記』の「項羽本紀」です。「四面楚歌」は教科書などでこの場面に付けられた題名として用いられます。
正解:1. 周囲が敵や反対者ばかりで孤立すること
夜聞漢軍四面皆楚歌
楚の歌に囲まれて項羽が孤立を感じた故事から、味方や助けのない状態を表します。
問41〜50は記述問題です。ノートなどに答えを書いてから解答例を開き、必要な要素が自分の答案に含まれているか確かめましょう。解答例と一字一句同じである必要はありません。
解答例:自分を包囲する漢軍の四方から楚の歌が聞こえ、漢がすでに楚の地をすべて手に入れ、多くの楚人が敵方にいるのではないかと思ったから。
夜聞漢軍四面皆楚歌,項王乃大驚
「楚の歌が懐かしかったから」だけでは説明になりません。「敵陣から」という場所と「楚まで奪われたのか」という受け止め方をつなぎます。
解答例:山を引き抜き世を覆うほどの自分の力や気迫への誇りと、時勢が味方せず、その力をもってしても窮地を打開できない嘆きとの対照。
力拔山兮氣蓋世,時不利兮騅不逝
前半を「過去」、後半を「現在」と置き換えるだけでなく、「力への自負」と「力では変えられない状況」の対比を説明します。
解答例:「若」は虞を指す。自分が追い詰められた状況で、付き従ってきた虞をこれからどうしたらよいのかと案じ、どうすることもできず嘆く思いが表れている。
虞兮虞兮柰若何
本文の呼びかけ「虞兮虞兮」と結びつけます。虞に死を命じた、という内容を付け加えないこと。
解答例:そばに仕える人々はみな泣き、顔を上げて項羽を見ることのできる者はいなかった。項羽の歌と涙に深い悲しみを覚え、その姿をまともに見ることもできなかったと読み取れる。
左右皆泣,莫能仰視
「左右」は側近たち、「莫」は「〜する者はいない」。心情は直前の歌と涙を根拠に読み取り、「怒られるのが怖いから」とはしません。
解答例:兵の数が少ないこと、食糧が尽きていること、漢軍と諸侯の軍に何重にも包囲されていること。
兵少食盡,漢軍及諸侯兵圍之數重
「兵少」「食盡」「圍之數重」をそれぞれ説明します。本文にない兵数や日数を補う必要はありません。
解答例:楚の歌は、項羽軍を包囲する漢軍の側で、四方から歌われている。垓下の歌は、項羽が陣営の幕の中で自ら作って歌ったものである。本文に歌詞が示されているのは、項羽の垓下の歌である。
夜聞漢軍四面皆楚歌/項王則夜起,飲帳中/於是項王乃悲歌忼慨,自為詩曰
項羽が外から聞いた楚の歌と、その後に自ら作って歌った詩を区別します。漢軍が歌った具体的な歌詞は、この本文には示されていません。「力拔山兮氣蓋世」以下を漢軍の歌詞として扱わないようにしましょう。
解答例:虞はいつも項羽に寵愛され、項羽に付き従っていた。項羽はいつも、その駿馬である騅に乗っていた。
有美人名虞,常幸從;駿馬名騅,常騎之。
「常幸從」の主語は虞で、「幸」はここでは「寵愛される」と受け身に読みます。「常騎之」では主語が項羽に切り替わり、「之」は騅を指します。同じ主語が続くと決めつけず、前後の内容から補いましょう。
解答例:「項王泣數行下」の「泣」は名詞で「涙」の意味。「項羽の涙が幾筋も流れ落ちた」と訳す。「左右皆泣」の「泣」は動詞で「泣く」の意味。「そばに仕える人々はみな泣いた」と訳す。
項王泣數行下,左右皆泣
最初の文は「涙」が「下る」という組み立てなので、「泣」を名詞として読みます。次の文では「左右」を主語として、その行動を表す動詞に用いられています。同じ漢字でも、文の中の役割によって品詞と読み方が変わります。
解答例:分かるのは、虞が項羽の歌に合わせて歌ったことである。虞が歌った具体的な歌詞や、虞がその後に自害したという記述は、このページの本文にはないため、この本文だけでは断定できない。
歌數闋,美人和之。項王泣數行下,左右皆泣,莫能仰視。
「和す」は相手の歌に合わせて歌うことです。本文の「項王軍壁垓下」から「莫能仰視」までに描かれた内容と、後世の物語などで語られる内容を分けましょう。「書かれていない」ことは、「その出来事が絶対になかった」という証明でもありません。
解答例:「騅不逝」の反復は、騅が進まず、どうしてよいか分からない嘆きを強めている。「虞兮虞兮」の反復は、虞に繰り返し呼びかけることで、虞の行く末を案じる思いの切実さを強めている。
時不利兮騅不逝。騅不逝兮可柰何,虞兮虞兮柰若何!
単に「悲しさを強調している」で終わらず、繰り返される言葉の内容と効果を結びつけます。騅の箇所は直後の「可柰何」、虞の箇所は「柰若何」と合わせて読むと説明できます。本文に即して、行き詰まりや切迫した思いを説明した表現も認められます。
「四面楚歌(しめんそか)」の意味:周囲が敵や反対者ばかりで、助けがなく孤立していること。もとは、垓下で包囲された項羽が、敵である漢軍の四方から楚の歌を聞いた故事です。
楚の指導者。劉邦の漢軍などに包囲され、垓下の歌を歌います。「項王」「項羽」は同じ人物です。
項羽に寵愛され、常に付き従っていた女性。本文では項羽の歌に唱和します。虞美人とも呼ばれます。
項羽がいつも乗っていた駿馬の名。歌の中にも登場します。
項羽のそばに仕える人々。「左側と右側の場所」の意味ではありません。
出典は司馬遷『史記』巻七・項羽本紀です。「項王軍壁垓下」から「莫能仰視」までを5節に分け、原文・書き下し文・現代語訳を対応させています。教科書によって字体・句読点・訓読・収録範囲が異なるため、定期テストでは授業の指定を優先してください。
物語の前後を読む:鴻門之会 → 四面楚歌 → 項王自刎。烏江での最期は「項王自刎」で扱います。
原文
項王軍壁垓下,兵少食盡,漢軍及諸侯兵圍之數重。書き下し文
項王の軍、垓下(がいか)に壁(へき)す。兵少なく食尽く。漢軍及び諸侯の兵、之を囲むこと数重なり。現代語訳
項羽の軍は垓下に陣を構えた。兵は少なく、食糧も尽きていた。漢の軍と諸侯の軍が、項羽の軍を何重にも取り囲んでいた。読み方のポイント:「壁」は、もとの「とりで・陣地」という名詞が、ここでは「陣を構える」という動詞として使われています。「之」は項羽の軍を指します。冒頭だけで、兵力・食糧・包囲という三つの不利な条件が示されています。
原文
夜聞漢軍四面皆楚歌,項王乃大驚曰:「漢皆已得楚乎?是何楚人之多也!」書き下し文
夜、漢軍の四面皆楚歌するを聞き、項王乃(すなは)ち大いに驚きて曰はく、「漢皆已(すで)に楚を得たるか。是(こ)れ何ぞ楚人の多きや。」と。現代語訳
夜、漢の軍が四方でみな楚の歌を歌うのを聞き、項羽はそこでひどく驚いて言った。「漢はもう楚の地をすべて手に入れてしまったのか。なんと楚の人間が多いことか。」読み方のポイント:歌っているのは、包囲する漢軍の側です。項羽は敵陣に楚の人々が大勢いると思い、楚の地まで漢に奪われたのではないかと疑っています。本文は項羽の受け止め方を示しており、ここで楚の全域が陥落したと地の文で断定しているわけではありません。
原文
項王則夜起,飲帳中。有美人名虞,常幸從;駿馬名騅,常騎之。書き下し文
項王則ち夜起ち、帳中に飲す。美人有り、名は虞(ぐ)。常に幸せられて従ふ。駿馬の名は騅(すい)。常に之に騎す。現代語訳
項羽はそこで夜に起き、陣営の幕の中で酒を飲んだ。虞という名の美しい女性がいて、いつも項羽に寵愛されて付き従っていた。また、騅という名の駿馬がおり、項羽はいつもその馬に乗っていた。読み方のポイント:「幸」はここでは「寵愛する」の意味で、「幸せられて」は「寵愛されて」と訳します。「従ふ」の主語は虞、「騎す」の主語は項羽です。「常騎之」の「之」は直前の駿馬・騅を指します。
原文
於是項王乃悲歌忼慨,自為詩曰:「力拔山兮氣蓋世,時不利兮騅不逝。騅不逝兮可柰何,虞兮虞兮柰若何!」書き下し文
是に於いて項王乃ち悲歌慷慨(ひかこうがい)し、自ら詩を為(つく)りて曰はく、「力は山を抜き、気は世を蓋(おほ)ふ。時利あらず、騅逝(ゆ)かず。騅の逝かざるを奈何(いかん)すべき。虞や虞や、若(なんぢ)を奈何せん。」と。現代語訳
そこで項羽は悲しみを込めて歌い、深く嘆いて、自分で詩を作った。「私の力は山を引き抜くほどで、気迫は世を覆うほどだ。だが時勢が味方せず、騅も前へ進まない。騅が進まないのをどうしたらよいのか。虞よ、虞よ、お前をどうしたらよいのか。」読み方のポイント:「忼慨」は「慷慨」とも書き、ここでは心に深く感じて嘆くこと。「柰」は「奈」と同じ働きです。「兮」は詠嘆・調子を添える字で、書き下しでは読まない場合と「や」と読む場合があります。「若」は「なんぢ=お前」で、呼びかける相手の虞を指します。圧倒的な力を誇る前半と、自分の力で状況を変えられない後半の対照を読み取りましょう。
原文
歌數闋,美人和之。項王泣數行下,左右皆泣,莫能仰視。書き下し文
歌ふこと数闋(すうけつ)、美人之に和す。項王、泣(なみだ)数行下る。左右皆泣き、能く仰視する莫(な)し。現代語訳
何度か歌い終えると、虞がその歌に合わせて歌った。項羽の涙が幾筋も流れ落ちた。そばに仕える人々はみな泣き、顔を上げて項羽を見ることのできる者はいなかった。読み方のポイント:「闋」は楽曲が一回終わること。「和す」は、相手の歌に合わせて歌うことです。「莫」は「〜する者はいない」という否定の主語として働き、「莫能仰視」は「仰ぎ見ることのできる者はいない」と訳します。本文のこの範囲には虞の死は書かれていません。後世の物語の内容を、そのまま本文の答えにしないようにしましょう。
読み:垓下に壁す
垓下に陣を構える
名詞「壁(陣地・とりで)」を動詞として用いています。「壁を壊す」ではありません。
読み:漢皆已に楚を得たるか
漢はもう楚をすべて手に入れたのか
「已」は「すでに」。「乎」は疑問の終助詞で、この文は項羽の驚きと疑いを表します。
読み:是れ何ぞ楚人の多きや
なんと楚の人が多いことか
「何ぞ〜や」が程度への驚きを表す詠嘆です。「何」は「どの人」と尋ねる語ではありません。「楚人之多」は「楚人の多き」と読み、之は主語「楚人」と述語「多」をつなぎます。
読み:常に幸せられて従ふ
いつも寵愛されて付き従う
「幸」は寵愛すること。ここでは虞が項羽に寵愛されると受け身に読みます。「幸運にも従った」とは訳しません。
読み:奈何すべき
どうしたらよいのか
「奈何」で対処の方法を問います。ここでは、騅が進まない事態への困惑・嘆きを表します。
読み:若を奈何せん
お前をどうしたらよいのか
「奈A何」は「Aをどうしたらよいか」。Aに入る「若」は二人称代名詞で、虞を指します。「もし」という仮定ではありません。
読み:美人之に和す
虞がその歌に合わせて歌う
「和す」は唱和すること。「之」は項羽の歌を指します。
読み:能く仰視する莫し
顔を上げて見ることのできる者はいない
「莫」は「〜する者はいない」という否定、「能」は可能を表します。禁止の「見るな」ではありません。
| 確認すること | 押さえたい違い |
|---|---|
| 「常幸從」は、虞を主語として受け身に読む | 「幸」は寵愛すること。「常に幸(こう)せられて従ふ」は、虞が項羽に寵愛されて付き従うという意味です。「幸せられて」の「せ」だけを見て使役と判断しないようにしましょう。続く「常騎之」では主語が項羽に変わり、「之」は愛馬の騅を指します。 |
| 「泣」は、名詞の「涙」と動詞の「泣く」を区別する | 「項王泣數行下」は、項羽の涙が幾筋も流れ落ちるという文で、「泣」は名詞です。「左右皆泣」は、側近たちがみな泣くという文で、「泣」は動詞です。名詞の「泣」には「なみだ」「なんだ」などの訓読があり、授業で指定された読みを優先します。 |
| 「莫能仰視」は、できる者が一人もいないという否定 | 「莫」は「〜する者はいない」、「能」は「できる」の意味です。「莫能仰視」は「顔を上げて見ることのできる者はいない」と訳します。「見てはならない」という禁止や、「全員が見られるとは限らない」という部分否定ではありません。 |
| 漢軍の楚歌と、項羽の垓下の歌を混同しない | 最初に四方から聞こえる楚の歌は、包囲する漢軍の側で歌われています。その後の「力拔山兮氣蓋世」以下は、項羽が自ら作って歌った詩です。この本文に歌詞が示されているのは後者で、二つを同じ歌詞として扱う根拠はありません。 |
| 本文にある行動と、本文の外の物語を分ける | このページの本文は「項王軍壁垓下」から「莫能仰視」までです。虞については「美人和之」とあり、項羽の歌への唱和が描かれますが、虞の具体的な歌詞や死は書かれていません。後世の物語の展開を、そのまま本文の内容として答えないようにしましょう。 |
| 項羽の発言と、地の文が述べる事実を分ける | 「漢皆已得楚乎」は「漢はもう楚をすべて手に入れたのか」という項羽の疑問です。敵陣から楚の歌が聞こえたため、楚の地まで奪われたのではないかと疑っています。この発言だけで、楚全域の陥落が地の文によって確定したと考えないようにしましょう。 |
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出典・本文について
出典は司馬遷『史記』項羽本紀です。古典原文を参照し、書き下し文・現代語訳・設問を学習用に作成しています。授業で指定された字体・訓読・解釈がある場合は、それを優先してください。