1|秋待ちつけて|秋を迎えても病状は安定しない
秋待ちつけて、世の中少し涼しくなりては、御心地もいささかさはやぐやうなれど、なほともすれば、かごとがまし。さるは、身にしむばかり思さるべき秋風ならねど、露けき折がちにて過ぐしたまふ。
現代語訳
待ち望んだ秋になり、世間が少し涼しくなってからは、紫の上のご気分もいくらかさっぱりするようだが、やはり何かにつけて苦しさを訴えたくなる。それほど身にしみると感じられるはずの秋風でもないのに、涙にぬれることが多いままお過ごしになる。
源氏物語「御法」/高校古文
紫の上の死を、本文・訳・文法から読む
『源氏物語』「紫の上の死」(紫上の死・萩の上露)の現代語訳、品詞分解、あらすじ、心情の解説、テスト対策をまとめました。品詞分解は冒頭・重要文・三首の和歌を掲載しています。
長く病む紫の上のもとを、養女の明石中宮が訪れます。少し起きていられる姿を喜ぶ光源氏に対し、紫の上は自分の死後の源氏の悲しみを思います。三人は露に命を重ねた和歌を交わしますが、紫の上はその夜に容態が悪化し、夜明けに亡くなります。残された源氏は深い悲嘆に沈みます。
場面の核心:回復を願う源氏と、死を予感しながら源氏を気遣う紫の上。その思いの違いが、三首の和歌と「露」の表現で描かれます。
出典は紫式部『源氏物語』第四十帖「御法(みのり)」。教材名「紫の上の死」「紫上の死」「萩の上露」は、採録範囲が重なることがあります。
「秋待ちつけて」から「消え果てたまひぬ」までを、本文の順に12のまとまりで読みます。訳では省略された主語を補っています。
掲載範囲:秋を迎えた病床の場面〜三首の贈答歌〜紫の上の臨終。『御法』一巻全体の全文ではありません。教科書によって表記・句読点・採録範囲が異なるため、提出答案は学校の本文表記に合わせてください。
秋待ちつけて、世の中少し涼しくなりては、御心地もいささかさはやぐやうなれど、なほともすれば、かごとがまし。さるは、身にしむばかり思さるべき秋風ならねど、露けき折がちにて過ぐしたまふ。
現代語訳
待ち望んだ秋になり、世間が少し涼しくなってからは、紫の上のご気分もいくらかさっぱりするようだが、やはり何かにつけて苦しさを訴えたくなる。それほど身にしみると感じられるはずの秋風でもないのに、涙にぬれることが多いままお過ごしになる。
中宮は、参りたまひなむとするを、「今しばしは御覧ぜよ」とも、聞こえまほしう思せども、さかしきやうにもあり、内裏の御使ひの隙なきもわづらはしければ、さも聞こえたまはぬに、あなたにもえ渡りたまはねば、宮ぞ渡りたまひける。
現代語訳
明石中宮が宮中へお戻りになろうとするのを、紫の上は「もうしばらく、私の様子を見ていてください」とも申し上げたくお思いになる。しかし、差し出がましいようでもあり、帝からのお使いがひっきりなしに来るのも気がかりなので、そのようにも申し上げなさらない。そのうえ、中宮のお部屋へおいでになることもできないため、中宮のほうが紫の上のもとへお越しになった。
かたはらいたけれど、げに見たてまつらぬもかひなしとて、こなたに御しつらひをことにせさせたまふ。
現代語訳
紫の上は、中宮を自分の病室にお迎えするのは恐縮だが、確かにお目にかからないのも残念だと思い、こちらのお部屋に中宮のためのご用意を特別にさせなさる。
「こよなう痩せ細りたまへれど、かくてこそ、あてになまめかしきことの限りなさもまさりてめでたかりけれ」と、来し方あまり匂ひ多く、あざあざとおはせし盛りは、なかなかこの世の花の薫りにもよそへられたまひしを、限りもなくらうたげにをかしげなる御さまにて、いとかりそめに世を思ひたまへるけしき、似るものなく心苦しく、すずろにもの悲し。
現代語訳
「ずいぶんお痩せになったけれど、こうなってこそ、高貴で優美な美しさがいっそう増して、すばらしいことだ」と中宮には思われる。以前、輝くような美しさに満ち、ひときわ鮮やかでいらした女盛りのころは、かえってこの世の花の美しさにもたとえられたのに、今はこの上なくいとおしく、美しいお姿でいらっしゃる。この世をほんの一時のものとお考えになっているご様子は、何にもたとえようがなくおいたわしく、わけもなく悲しい。
風すごく吹き出でたる夕暮に、前栽見たまふとて、脇息に寄りゐたまへるを、院渡りて見たてまつりたまひて、「今日は、いとよく起きゐたまふめるは。この御前にては、こよなく御心もはればれしげなめりかし」と聞こえたまふ。
現代語訳
風がもの寂しく吹き始めた夕暮れに、紫の上が庭の植え込みを御覧になろうとして、肘掛けに寄りかかって座っていらっしゃる。そこへ源氏がお越しになってその姿を拝見し、「今日は、ずいぶんしっかり起きていらっしゃるようですね。中宮のおそばでは、お気持ちも格別に晴れやかなご様子ですね」と申し上げる。
かばかりの隙あるをも、いとうれしと思ひきこえたまへる御けしきを見たまふも、心苦しく、「つひに、いかに思し騒がむ」と思ふに、あはれなれば、
「おくと見るほどぞはかなきともすれば
風に乱るる萩の上露」
現代語訳
この程度の小康状態さえ、とてもうれしくお思い申し上げている源氏のご様子を、紫の上は御覧になって、おいたわしく感じる。「とうとう私の最期となったら、どんなにお嘆きになるだろう」と思うと悲しいので、歌を詠む。
「露が置いていると見る間もほんのわずかです。すぐに風に乱される萩の葉の露のように、私が起きていられる間も短く、命もはかないのです。」
げにぞ、折れかへりとまるべうもあらぬ、よそへられたる折さへ忍びがたきを、見出だしたまひても、
「ややもせば消えを争ふ露の世に
後れ先立つほど経ずもがな」
とて、御涙を払ひあへたまはず。
現代語訳
確かに、風に折れ返る萩の枝には、露がとどまりそうにもない。紫の上の命をその露にたとえるのにふさわしい季節であることまでも、源氏には耐えがたい。庭を眺めても、
「ともすると先を争うように消える露のような世の中で、あなたと私が後になったり先になったりする間を置かずに、共に死ねたらよいのに。」
と詠んで、流れる涙を払いきることがおできにならない。
宮、
「秋風にしばしとまらぬ露の世を
誰か草葉の上とのみ見む」
現代語訳
明石中宮は、
「秋風に吹かれて少しの間もとどまらない露、そのようにはかない世を、誰が草葉の上だけのことと思うでしょうか。私たち人間の命も同じなのです。」
と詠む。
と聞こえ交はしたまふ御容貌ども、あらまほしく、見るかひあるにつけても、「かくて千年を過ぐすわざもがな」と思さるれど、心にかなはぬことなれば、かけとめむ方なきぞ悲しかりける。
現代語訳
このように歌を交わされる紫の上と明石中宮のお姿は理想的で、見がいがある。それだけに源氏は「このまま千年も一緒に過ごす方法があればよいのに」と自然にお思いになる。しかし、思いどおりにはならないことなので、紫の上の命を引き止める方法がないのが悲しいのであった。
「今は渡らせたまひね。乱り心地いと苦しくなりはべりぬ。いふかひなくなりにけるほどと言ひながら、いとなめげにはべりや」とて、御几帳引き寄せて臥したまへるさまの、常よりもいと頼もしげなく見えたまへば、
現代語訳
「もうお部屋へお戻りください。具合がたいそう悪くなってまいりました。何もできない状態になってしまったとはいえ、おそばで横になるのは、まことに失礼なことでございますね」と言って、紫の上は几帳を引き寄せて横になられる。その姿が、いつもよりずっと心もとなくお見えになるので、
「いかに思さるるにか」とて、宮は、御手をとらへたてまつりて、泣く泣く見たてまつりたまふに、まことに消えゆく露の心地して、限りに見えたまへば、御誦経の使ひども、数も知らず立ち騒ぎたり。
現代語訳
「どのようにお感じなのでしょうか」と言って、中宮は紫の上のお手をお取り申し上げ、泣きながら見守っていらっしゃる。紫の上はまさに消えていく露のようで、いよいよ最期とお見えになるので、読経を頼みに行く使いたちが、数えきれないほど慌ただしく立ち働いている。
先々も、かくて生き出でたまふ折にならひたまひて、御もののけと疑ひたまひて、夜一夜さまざまのことをし尽くさせたまへど、かひもなく、明け果つるほどに消え果てたまひぬ。
現代語訳
以前にも、このような状態から紫の上が息を吹き返されたことがあったので、源氏は今回も物の怪のしわざかと疑い、一晩中さまざまな祈祷などをできるかぎり行わせなさる。しかし、そのかいもなく、夜がすっかり明けるころ、紫の上は亡くなってしまわれた。
「秋待ちつけて」の冒頭、敬語・助動詞が重要な文、紫の上・光源氏・明石の中宮の三首を、単語ごとに分解します。本文全体の全文分解ではなく、以下の9か所が対象です。表の「―」は活用しない語を表します。
教科書によって漢字・仮名表記や句読点に違いがあります。「かごとがまし/かことがまし」「上露/うは露」などは、授業で使う本文の表記も確認してください。
秋待ちつけて、世の中少し涼しくなりては、御心地もいささかさはやぐやうなれど、なほともすれば、かごとがまし。さるは、身にしむばかり思さるべき秋風ならねど、露けき折がちにて過ぐしたまふ。
| 単語 | 品詞・活用の種類 | 活用形 | 文中の意味・働き |
|---|---|---|---|
| 秋 | 名詞 | ― | 秋。 |
| 待ちつけ | 動詞「待ちつく」・カ行下二段 | 連用形 | 待ち続けて、ようやく迎え。 |
| て | 接続助詞 | ― | 前後の出来事をつなぐ。 |
| 世の中 | 名詞 | ― | ここでは季節・気候。 |
| 少し | 副詞 | ― | 少し。 |
| 涼しく | 形容詞「涼し」・シク活用 | 連用形 | 涼しく。 |
| なり | 動詞「なる」・ラ行四段 | 連用形 | なる。断定の助動詞ではない。 |
| て | 接続助詞 | ― | ~て。 |
| は | 係助詞 | ― | 涼しくなった段階を取り立てる。 |
| 御心地 | 名詞 | ― | 紫の上のお体の具合。 |
| も | 係助詞 | ― | 体の具合も。 |
| いささか | 副詞 | ― | 少し。 |
| さはやぐ | 動詞「さはやぐ」・ガ行四段 | 連体形 | 気分がすっきりする・病状がよくなる。 |
| やう | 名詞 | ― | 様子。「やうなれど」で「様子であるが」。 |
| なれ | 助動詞「なり」・断定 | 已然形 | ~である。 |
| ど | 接続助詞 | ― | ~けれども。已然形に付く。 |
| なほ | 副詞 | ― | やはり・依然として。 |
| ともすれば | 副詞 | ― | 何かにつけて・どうかすると。 |
| かごとがまし | 形容詞「かごとがまし」・シク活用 | 終止形 | 恨みごとを言いたくなる様子だ。病状へのつらさがにじむ。 |
| さるは | 接続詞 | ― | そうではあるが・とはいうものの。 |
| 身 | 名詞 | ― | 身・心身。 |
| に | 格助詞 | ― | 感じられる先を示す。 |
| しむ | 動詞「しむ」・マ行四段 | 連体形 | 深く感じる・しみる。 |
| ばかり | 副助詞 | ― | ~ほど。程度を表す。 |
| 思さ | 動詞「思す」・サ行四段/尊敬語 | 未然形 | お思いになる。「思ふ」の尊敬語で、紫の上を敬う。 |
| る | 助動詞「る」・自発 | 終止形 | 自然と~と感じられる。 |
| べき | 助動詞「べし」・当然 | 連体形 | ~はずの。「しみじみ感じられるはずの秋風」。 |
| 秋風 | 名詞 | ― | 秋の風。 |
| なら | 助動詞「なり」・断定 | 未然形 | ~である。 |
| ね | 助動詞「ず」・打消 | 已然形 | ~ない。「ならねど」で「ではないけれど」。 |
| ど | 接続助詞 | ― | ~けれども。 |
| 露けき | 形容詞「露けし」・ク活用 | 連体形 | 涙にぬれる。露でしっとりする意味を涙に重ねる。 |
| 折がちに | 形容動詞「折がちなり」・ナリ活用 | 連用形 | そのような時が多く。「露けき折がち」で涙がちな様子。 |
| て | 接続助詞 | ― | ~て。 |
| 過ぐし | 動詞「過ぐす」・サ行四段 | 連用形 | 日々を過ごし。 |
| たまふ | 補助動詞「たまふ」・ハ行四段/尊敬語 | 終止形 | ~なさる。紫の上への敬意。 |
中宮は、参りたまひなむとするを、今しばしは御覧ぜよとも、聞こえまほしう思せども
| 単語 | 品詞・活用の種類 | 活用形 | 文中の意味・働き |
|---|---|---|---|
| 中宮 | 名詞 | ― | 明石の中宮。 |
| は | 係助詞 | ― | 話題を示す。 |
| 参り | 動詞「参る」・ラ行四段/謙譲語 | 連用形 | 宮中へ参上し。参上先の帝への敬意。 |
| たまひ | 補助動詞「たまふ」・ハ行四段/尊敬語 | 連用形 | ~なさり。動作主の明石の中宮への敬意。 |
| な | 助動詞「ぬ」・強意 | 未然形 | 後ろの「む」を強める。 |
| む | 助動詞「む」・意志 | 終止形 | ~しよう。 |
| と | 格助詞 | ― | 「~しよう」という内容を受ける。 |
| する | 動詞「す」・サ行変格 | 連体形 | する。「むとす」で、まさに~しようとする。 |
| を | 格助詞 | ― | 「帰参しようとなさるのを」と前の内容を受ける。 |
| 今 | 副詞 | ― | もう。「今しばし」で「もうしばらく」。 |
| しばし | 副詞 | ― | しばらく。 |
| は | 係助詞 | ― | 期間を取り立てる。 |
| 御覧ぜよ | 動詞「御覧ず」・サ行変格/尊敬語 | 命令形 | 見ていてください。「見る」の尊敬語で中宮を敬う。 |
| と | 格助詞 | ― | 言いたい内容を示す引用。 |
| も | 係助詞 | ― | ~とも。 |
| 聞こえ | 動詞「聞こゆ」・ヤ行下二段/謙譲語 | 未然形 | 申し上げ。紫の上から中宮への発言を表す。 |
| まほしう | 助動詞「まほし」・願望 | 連用形「まほしく」のウ音便 | ~したく。 |
| 思せ | 動詞「思す」・サ行四段/尊敬語 | 已然形 | お思いになる。主語は紫の上。 |
| ども | 接続助詞 | ― | ~けれども。 |
こよなう痩せ細りたまへれど、かくてこそ、あてになまめかしきことの限りなさもまさりてめでたかりけれ
| 単語 | 品詞・活用の種類 | 活用形 | 文中の意味・働き |
|---|---|---|---|
| こよなう | 形容詞「こよなし」・ク活用 | 連用形「こよなく」のウ音便 | ひどく・この上なく。 |
| 痩せ細り | 動詞「痩せ細る」・ラ行四段 | 連用形 | 痩せ細り。 |
| たまへ | 補助動詞「たまふ」・ハ行四段/尊敬語 | 已然形 | ~なさる。紫の上への敬意。 |
| れ | 助動詞「り」・存続 | 已然形 | ~ていらっしゃる。痩せ細った状態の継続。 |
| ど | 接続助詞 | ― | ~けれども。 |
| かく | 副詞 | ― | このように。 |
| て | 接続助詞 | ― | ~して。 |
| こそ | 係助詞 | ― | 強調。結びを已然形「けれ」にする。 |
| あてに | 形容動詞「あてなり」・ナリ活用 | 連用形 | 上品で・高貴で。 |
| なまめかしき | 形容詞「なまめかし」・シク活用 | 連体形 | 優美である・みずみずしく美しい。 |
| こと | 名詞 | ― | こと・様子。 |
| の | 格助詞 | ― | 連体修飾。「優美であることの」。 |
| 限りなさ | 名詞 | ― | 限りない程度。「限りなし」を「さ」で名詞化した語。 |
| も | 係助詞 | ― | ~も。 |
| まさり | 動詞「まさる」・ラ行四段 | 連用形 | いっそう増し。 |
| て | 接続助詞 | ― | ~て。 |
| めでたかり | 形容詞「めでたし」・ク活用 | 連用形(カリ活用) | すばらしい。 |
| けれ | 助動詞「けり」・詠嘆 | 已然形 | ~のだなあ。「こそ」の結び。 |
おくと見るほどぞはかなきともすれば風に乱るる萩の上露
| 単語 | 品詞・活用の種類 | 活用形 | 文中の意味・働き |
|---|---|---|---|
| おく | 動詞「起く」・カ行上二段/動詞「置く」・カ行四段 | いずれも終止形 | 病床から起きている/露が置く。二つの意味を掛ける。 |
| と | 格助詞 | ― | 「~と見る」の内容を示す。 |
| 見る | 動詞「見る」・マ行上一段 | 連体形 | 見る・思う。 |
| ほど | 名詞 | ― | 間・時間。 |
| ぞ | 係助詞 | ― | 強調。連体形「はかなき」に結ぶ。 |
| はかなき | 形容詞「はかなし」・ク活用 | 連体形 | あっけなく短い。「ぞ」の結び。 |
| ともすれば | 副詞 | ― | どうかすると・ちょっとしたことでも。 |
| 風 | 名詞 | ― | 秋の風。 |
| に | 格助詞 | ― | 原因。「風によって」。 |
| 乱るる | 動詞「乱る」・ラ行下二段 | 連体形 | 乱れ散る。 |
| 萩 | 名詞 | ― | 庭の萩。 |
| の | 格助詞 | ― | 連体修飾。 |
| 上露 | 名詞 | ― | 草葉に置く露。「うはつゆ」。紫の上の命を重ねる。 |
ややもせば消えを争ふ露の世に後れ先立つほど経ずもがな
| 単語 | 品詞・活用の種類 | 活用形 | 文中の意味・働き |
|---|---|---|---|
| ややもせば | 副詞 | ― | どうかすると。「ともすれば」に通じる語。 |
| 消え | 名詞(動詞「消ゆ」の連用形から転じた語) | ― | 消えること。人が死ぬことを重ねる。 |
| を | 格助詞 | ― | 「争ふ」の対象を示す。 |
| 争ふ | 動詞「争ふ」・ハ行四段 | 連体形 | 先を争う。 |
| 露 | 名詞 | ― | はかなく消える露。 |
| の | 格助詞 | ― | 連体修飾。「露の世」で露のようにはかない世。 |
| 世 | 名詞 | ― | 人の世・人生。 |
| に | 格助詞 | ― | ~にあって。 |
| 後れ | 動詞「後る」・ラ行下二段 | 連用形 | 死に後れ。 |
| 先立つ | 動詞「先立つ」・タ行四段 | 連体形 | 先に死ぬ。 |
| ほど | 名詞 | ― | 時間の隔たり。 |
| 経 | 動詞「経(ふ)」・ハ行下二段 | 未然形 | 時がたつ・時を隔てる。 |
| ず | 助動詞「ず」・打消 | 連用形 | ~ない。 |
| もがな | 終助詞 | ― | 願望。「経ずもがな」で「時を隔てなければよいのに」。 |
秋風にしばしとまらぬ露の世を誰か草葉の上とのみ見む
| 単語 | 品詞・活用の種類 | 活用形 | 文中の意味・働き |
|---|---|---|---|
| 秋風 | 名詞 | ― | 秋の風。 |
| に | 格助詞 | ― | 原因。「秋風によって」。 |
| しばし | 副詞 | ― | 少しの間。下の打消と合わせ「少しの間も」。 |
| とまら | 動詞「とまる」・ラ行四段 | 未然形 | とどまる。 |
| ぬ | 助動詞「ず」・打消 | 連体形 | ~ない。直前が未然形「とまら」。 |
| 露 | 名詞 | ― | はかなく消える露。 |
| の | 格助詞 | ― | 連体修飾。 |
| 世 | 名詞 | ― | 世・人生。「露の世」で命のはかなさを表す。 |
| を | 格助詞 | ― | 「見む」の対象を示す。 |
| 誰 | 代名詞 | ― | だれ。 |
| か | 係助詞 | ― | 反語。下の「む」を連体形で結ぶ。 |
| 草葉 | 名詞 | ― | 草の葉。 |
| の | 格助詞 | ― | 連体修飾。 |
| 上 | 名詞 | ― | 上。「うへ」。 |
| と | 格助詞 | ― | ~だと。判断内容を示す。 |
| のみ | 副助詞 | ― | ~だけ。限定。 |
| 見 | 動詞「見る」・マ行上一段 | 未然形 | 見る・考える。 |
| む | 助動詞「む」・推量 | 連体形 | ~だろう。「か」の結び。 |
かくて千年を過ぐすわざもがなと思さるれど
| 単語 | 品詞・活用の種類 | 活用形 | 文中の意味・働き |
|---|---|---|---|
| かくて | 副詞 | ― | このようにして。この三人で過ごしているまま。 |
| 千年 | 名詞 | ― | 千年。非常に長い年月。 |
| を | 格助詞 | ― | 過ごす時間を示す。 |
| 過ぐす | 動詞「過ぐす」・サ行四段 | 連体形 | 過ごす。 |
| わざ | 名詞 | ― | 方法・手だて。 |
| もがな | 終助詞 | ― | 願望。「方法があればよいのに」。 |
| と | 格助詞 | ― | 心中に浮かぶ内容を示す。 |
| 思さ | 動詞「思す」・サ行四段/尊敬語 | 未然形 | お思いになる。主語は光源氏。 |
| るれ | 助動詞「る」・自発 | 已然形 | 自然と~と思われる。 |
| ど | 接続助詞 | ― | ~けれども。 |
今は渡らせたまひね。乱り心地いと苦しくなりはべりぬ。
| 単語 | 品詞・活用の種類 | 活用形 | 文中の意味・働き |
|---|---|---|---|
| 今 | 名詞 | ― | 今・もう。 |
| は | 係助詞 | ― | 今という時点を取り立てる。 |
| 渡ら | 動詞「渡る」・ラ行四段 | 未然形 | お移りになる・お戻りになる。ここでは中宮に別室へ移るよう促す。 |
| せ | 助動詞「す」・尊敬 | 連用形 | ~なさる。明石の中宮への敬意。 |
| たまひ | 補助動詞「たまふ」・ハ行四段/尊敬語 | 連用形 | ~なさる。「せ」と重ねて高い敬意を表す。 |
| ね | 助動詞「ぬ」・強意 | 命令形 | ~てください。「お戻りになってください」。 |
| 乱り心地 | 名詞 | ― | 病気による不快感・体の具合の悪さ。 |
| いと | 副詞 | ― | たいそう。 |
| 苦しく | 形容詞「苦し」・シク活用 | 連用形 | 苦しく。 |
| なり | 動詞「なる」・ラ行四段 | 連用形 | なり。 |
| はべり | 補助動詞「はべり」・ラ行変格/丁寧語 | 連用形 | ~ます。聞き手の中宮への丁寧な言い方。 |
| ぬ | 助動詞「ぬ」・完了 | 終止形 | ~た。「なりはべりぬ」で「なりました」。 |
明け果つるほどに消え果てたまひぬ。
| 単語 | 品詞・活用の種類 | 活用形 | 文中の意味・働き |
|---|---|---|---|
| 明け果つる | 動詞「明け果つ」・タ行下二段 | 連体形 | 夜がすっかり明ける。 |
| ほど | 名詞 | ― | ころ。 |
| に | 格助詞 | ― | 時を示す。 |
| 消え果て | 動詞「消え果つ」・タ行下二段 | 連用形 | すっかり消える。ここでは亡くなることを婉曲に表す。 |
| たまひ | 補助動詞「たまふ」・ハ行四段/尊敬語 | 連用形 | ~なさる。紫の上への敬意。 |
| ぬ | 助動詞「ぬ」・完了 | 終止形 | ~た。死が現実になったことを示す。 |
おくと見るほどぞはかなき
ともすれば
風に乱るる萩の上露
起きているように見えるのも、ほんのわずかな間です。私の命は、どうかすると風に乱されて落ちる萩の露のようにはかないのです。
ややもせば消えを争ふ
露の世に
後れ先立つほど経ずもがな
先を争って消えていく露のようにはかない世なら、あなたと後れたり先立ったりせず、間を置かず一緒に消えたいものです。
秋風にしばしとまらぬ
露の世を
誰か草葉の上とのみ見む
秋風に吹かれて少しもとどまらない露のような命を、誰が草葉の上だけのことと思うでしょう。私たちの命も同じです。
| 語・表現 | 修辞・関係 | 答案に書く内容 |
|---|---|---|
| おく | 「起く」と「置く」の掛詞 | 病床から起きている紫の上と、草葉に結ぶ露を重ねる |
| 置く・露 | 縁語 | 「露が置く(露が結ぶ)」という語の関係から、命のはかなさを印象づける |
| 風・乱るる・露 | 景物と心情の一致 | 秋風に乱され落ちそうな露を、死に近い紫の上の命にたとえる |
| 後れ・先立つ | 対になる語 | 源氏が紫の上と死別して一人残る時間を望まないことを表す |
| 草葉の上 | 露の所在と人の世の対比 | 無常は草葉の露だけのことではなく、人間全体に及ぶと示す |
敬語の種類に加え、動作の主語・相手・敬意を示す人を分けて考えます。地の文では、原則として語り手が敬意を示します。
| 本文の前後を含む表現 | 動作の主語 | 敬語の種類 | 敬意の方向 |
|---|---|---|---|
| 中宮は、参りたまひなむ | 明石中宮 | 参る:謙譲/たまふ:尊敬 | 語り手→帝(参る)、語り手→中宮(たまふ) |
| 「今しばしは御覧ぜよ」 | 明石中宮 | 御覧ず:尊敬 | 紫の上→明石中宮。実際には口に出せず、心の中で願う言葉 |
| 聞こえまほしう思せども | 紫の上 | 聞こゆ:謙譲/思す:尊敬 | 語り手→中宮(聞こゆ)、語り手→紫の上(思す) |
| 院渡りて見たてまつりたまひて | 光源氏(見る対象は紫の上) | たてまつる:謙譲/たまふ:尊敬 | 語り手→紫の上/語り手→光源氏 |
| いとうれしと思ひきこえたまへる | 光源氏(思う相手は紫の上) | きこゆ:謙譲/たまふ:尊敬 | 語り手→紫の上/語り手→光源氏 |
| 「今は渡らせたまひね」 | 明石中宮 | す+たまふ:二重尊敬 | 紫の上→明石中宮 |
| 「苦しくなりはべりぬ」 | 紫の上 | はべり:丁寧 | 紫の上→聞き手の明石中宮 |
| 宮は、御手をとらへたてまつりて | 明石中宮(手を取る相手は紫の上) | たてまつる:謙譲 | 語り手→紫の上 |
| 泣く泣く見たてまつりたまふ | 明石中宮(見る対象は紫の上) | たてまつる:謙譲/たまふ:尊敬 | 語り手→紫の上/語り手→明石中宮 |
| ことわりに悲しく見たてまつりたまふ | 夕霧(見る対象は光源氏) | たてまつる:謙譲/たまふ:尊敬 | 語り手→光源氏/語り手→夕霧 |
| 本文 | 文法 | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 参り給ひなむとする | 強意「ぬ」未然形+意志「む」 | 中宮が宮中へ参内しようとする。「なむ」を係助詞としない |
| 聞こえまほしう | 願望の助動詞「まほし」連用形のウ音便 | 申し上げたい。主体は紫の上、相手は明石中宮 |
| とまるべうもあらぬ | 「べく」のウ音便+打消「ず」連体形 | とどまりそうにもない |
| ほど経ずもがな | 終助詞「もがな」 | 願望。「間を置かずに一緒に死にたいものだ」 |
| 渡らせ給ひね | 尊敬「す」連用形+尊敬「給ふ」連用形+強意「ぬ」命令形 | 中宮に対する高い敬意。「もうお戻りください」 |
| 消え果て給ひぬ | 完了「ぬ」終止形 | すっかり亡くなってしまった |
| 限りのさまなめる | 「なるめる」→「なんめる」→「なめる」 | 断定「なり」+推定「めり」。「最期の様子であるようだ」 |
| 思しなすべかめれど | 「べかるめれど」→「べかんめれど」→「べかめれど」 | 推量「べし」+推定「めり」(語り手の推量)。「気丈に思おうとしているようだが」 |
| こそはあめれ | 「あるめれ」の撥音便無表記 | 推定「めり」已然形。夕霧が紫の上の死を推測する |
| 古語 | 本文中の意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| さはやぐ | 気分がさっぱりする・病状が少しよくなる | 現代語の「爽やか」だけで訳さない |
| かごとがまし | 苦しさを訴えたげだ・恨み言を言いたげだ | ここでは病の苦しさを訴えがちな様子 |
| かたはらいたし | きまりが悪い・気が引ける | 中宮を自分の病室へ迎えることへの遠慮 |
| こよなし | この上ない・格段である | 「こよなう」は連用形のウ音便 |
| なまめかし | 上品で優美だ | 現代語の「色っぽい」に限定しない |
| らうたげなり | かわいらしい・いとおしい様子だ | 保護したくなる美しさ |
| かりそめなり | 一時的だ・はかない | 紫の上が現世を一時のものと見る |
| 心苦し | 気の毒だ・心配だ | 自分が苦しい、ではなく相手を思いやる語 |
| かひなし | 効果がない・どうにもならない | 「夜一夜」の祈祷も効果がない |
| ことわりなり | もっともだ・当然だ | 夕霧が源氏の悲嘆を当然だと見る |
| 本意 | 以前からの願い | ここでは紫の上が望み続けた出家 |
| とぶらひ | 弔い・死後の導き | 「冥き途のとぶらひ」は来世への導き |
| 本文中の呼び名 | 人物 | 立場とテストで押さえる点 |
|---|---|---|
| 紫の上 | 光源氏の最愛の女性 | 長く病み、死を予感している。明石中宮の養母でもある |
| 院 | 光源氏 | 紫の上の回復を願うが、死後は深い悲嘆に陥る |
| 中宮・宮 | 明石中宮 | 紫の上に育てられた養女。宮中へ戻る前に病床を訪れる |
| 大将の君・この君 | 夕霧 | 光源氏の子。出家の扱いや死後の儀礼を冷静に進める |
本文前半は紫の上・光源氏・明石中宮、死後の場面では夕霧が加わります。「宮」は明石中宮、「院」は光源氏、「大将の君」は夕霧です。
ここからは、臨終後の本文の抜粋です。源氏は紫の上が生前に願っていた出家をかなえようと、夕霧に剃髪の手配を求めます。
などのたまふ御けしき、心強く思しなすべかめれど、御顔の色もあらぬさまに、いみじく堪へかね、御涙のとまらぬを、ことわりに悲しく見たてまつりたまふ。
現代語訳
そのようにおっしゃる源氏は、気持ちを強く持とうとしていらっしゃるようだが、お顔の色も普段とは違い、ひどく悲しみに耐えかねて涙が止まらない。夕霧はその姿を、もっともなことだと悲しく拝見する。
夕霧は、もしまだ命があるのなら出家には意味があるが、本当に亡くなった後に髪だけを切っても、来世を照らす助けになるとはいえず、目の前の悲しみを増すのではないかと申し上げます。そのうえで僧を呼び、必要な仏事を進めます。
秋の涼しさで少し気分がよくなったように見えても、すぐに具合が悪くなります。
紫の上は宮中へ戻ろうとする中宮を引き止めたいと思いますが、遠慮して口には出しません。
わずかな回復を喜ぶ源氏を見て、紫の上は自分の死後の源氏の悲しみを思いやります。
紫の上・光源氏・明石中宮が、「風」「露」「消える」という語を受け継ぎながら心を伝えます。
中宮に退出を勧めた直後に横になり、夜通し祈祷を尽くしても、夜明けに亡くなります。
生前に出家を望んでいた紫の上の願いを、せめて最期にかなえたいと考えます。
源氏が悲しみに沈むなか、夕霧は僧を手配します。紫の上の亡骸は生前以上に美しく描かれます。
LOGIQAのオリジナル練習問題です。「根拠となる描写」「和歌の役割」「人物の対比」を、自分の言葉で答えてから解答例を開きましょう。
解答例:秋になって少し回復したように見えても病状がすぐ悪化すること、ひどく痩せ細って現世を一時的なものと思っていること、自分の命を風に乱れる萩の露にたとえていることから分かる。
解答例:考えたのは紫の上である。わずかな小康状態さえ喜ぶ光源氏が、自分が死んだ時にはどれほど激しく嘆くことかと、源氏の悲しみを思いやっている。
解答例:「おく」に「起く」と「置く」を掛け、病床で起きていられる自分の命を、風に吹かれてすぐ落ちる萩の上の露に重ね、死が近いことを伝えている。
解答例:紫の上の「露」と命が消えるイメージを受け、露のようにはかない世なら、紫の上に後れたり先立ったりせず、間を置かず一緒に死にたいという願いを詠んでいる。
解答例:紫の上の「秋風」と源氏の「露の世」を受け継ぎ、露のようにはかない命は紫の上だけのことではなく、自分を含むすべての人に共通すると応じ、紫の上を慰めている。
解答例:冒頭の涙にぬれる生活、三首の和歌、紫の上が「消え果て」る臨終を結び、紫の上の命のはかなさを予告するとともに、人間の世全体の無常を印象づけている。
解答例:光源氏は悲嘆のあまり死を受け入れられず、生前の願いをかなえようと剃髪を急ぐ。一方、夕霧は源氏の悲しみに寄り添いながらも、死後の剃髪の問題を説明し、僧を手配して必要な儀礼を現実的に進める。
解答例:死の直前は痩せ細りながらも高貴で優美な美しさが増したと描かれ、死後も髪や顔に乱れのない完全な美として描かれる。現世を離れる紫の上を理想化し、失われた悲しみを強めている。
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いずれも『源氏物語』「御法」にある紫の上の最期を扱う教材名です。「萩の上露」という題で、三首の贈答歌や臨終を中心に扱う場合もあります。本文の開始・終了位置は教科書で確認してください。
「御法」は「みのり」、「萩の上露」は「はぎのうわつゆ」です。本文の歴史的仮名遣いでは「うはつゆ」と書きます。「萩」は秋の七草の一つで、「荻」とは別の植物です。
このページは「秋待ちつけて」から「消え果てたまひぬ」までの原文と現代語訳を続けて掲載しています。死後の源氏と夕霧の場面は、別の節に抜粋と解説を載せています。
冒頭、「中宮は参りたまひなむ」の前半、病床の美しさを述べる文、三首の和歌、「かくて千年を」、「今は渡らせたまひね」の前半、臨終の一文を扱っています。本文全語の品詞分解ではありません。助動詞・敬語は別の一覧でも復習できます。
草葉に結ぶ露は、風などですぐに落ち、消えてしまいます。そのはかなさが紫の上の命に重なります。「露けき」「萩の上露」「露の世」を経て、臨終の「消え果て」へとイメージがつながります。
この場面では、長く病んでいた紫の上の容態が悪化し、祈祷を尽くしても回復せず亡くなります。源氏は物の怪のしわざかと疑いますが、その疑いと、本文が確定した死因とは分けて読みましょう。
三首の詠み手と心情、掛詞「おく」、反語「誰か…む」、係り結び、助動詞「なむ」の識別、敬語の主語と対象を復習しましょう。死後までが範囲なら、源氏の剃髪の願いと夕霧の応答も確認します。
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相談してみる作品:紫式部『源氏物語』第四十帖「御法」。本文の照合には、渋谷栄一校訂「御法」(大島本)を参照しました。本文は学習用に一部の漢字・仮名・句読点を調整しています。
現代語訳・学習解説・練習問題は、このページ用に作成しています。「かことがまし/かごとがまし」「たまふ/給ふ」「上露/うは露」などは、教科書の表記に合わせて確認してください。文法の名称や細かな語の区切り方は、学校の採用する文法体系で表現が異なる場合があります。
制作:オンライン個別指導 LOGIQA/本文・解説の見直し:2026年10月1日
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